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2022.05.20 / thinking

読書アーカイブ:ニッポン巡礼

これまで何冊も本を読み、講演会も聞き、個人的に感銘を
受けているのがアレックス・カーさん。
彼の新書「ニッポン巡礼」を一気に読了。

色々と考えさせられる一冊だった。
白州正子の「かくれ里」にインスパイアされて、
決して観光地化されていない人里離れた日本の地域の
魅力が描かれている。

一度唐津で彼の講演を聞いたことがあったが、
いかに観光を活性化するか、お客さんに来て喜んでもらうかという
ことを他のパネラーが話す中、彼はひたすらに日本の景観に対する
問題を話し続けていたことを思い出す。

この本に向けられている彼の眼差しはその時と全く変わらない。
インターネットが発達し、SNSが主流の世の中で、「インスタ映え」することが
もてはやされ、あっという間に観光地になる時代。
観光地になれば、やれ商売と自然を壊した道路や大型駐車場、お土産屋や飲食店が
乱立し、本来その場所が持っていた価値や景観が失われてしまう。

対馬の観光のあり方を議論する中で、オーバーツーリズムを回避し、
量よりも質を重視することを大切にした。
これからの対馬の観光コンテンツを作っていく中で、その礎となるのは
ずっと守られてきた地域固有の自然環境や歴史文化であって、
そこが観光客によって壊されるのでは本末転倒だ。
観光に訪れる人たちにも、その景観や環境を大切にしてもらう社会的責任を
持ってもらいたい。
思いを口にする若い事業者の声を聞き、対馬の未来は明るい、そう思った。

アレックス・カーさんも同様のことに警鐘を鳴らしている。
彼は素敵な景観に出会っても「良い風景だな」とは感じず、
「次に来る時は観光地化されて壊されてしまうんだろうな」と逆に不安を感じている。
経済発展のために、町の景色が短期間で変化してしまうのは、アジアそして日本の
特徴なんだと言っているのはまさに同感。

私も訪ねたことがある山口県の萩や奄美大島も記載されていて、
能登半島や三井寺、青ヶ島は読んで行ってみたいと思った。

でも、詳細な場所や地図情報やアクセスは書かれておらず、
追体験することを望んでいない。追体験してSNSで発信されて、観光地化されて
景観が壊されてしまっては元も子もないからだ。

地域の観光振興に携わる立場として、観光集客や消費という結果が求められる中で、
彼の言葉にはいつもハッとさせられる。
歴史も含めた、長い目線に立たないと、地域の暮らしや文化はあっという間に
経済という怪物に食べられてしまい、もう元には戻らない。
その両輪に立ってどう地域の観光を活性化していけば良いのか、
非常に悩ましいけど、地域の人達と一緒に考えて、汗をかいていかねばならない。
南会津の茅葺き教室はほんと素晴らしい取り組みだと思う。

日本にルーツを持たないのに、日本人よりも日本の文化や景観のことを勉強し、
それらを次世代に残していく必要性を訴えている。
日本人として生まれてきたのに、そこまで日本のことを学んでこなかった自分が
恥ずかしくなる。地域という生きた教材があるのだから、もっともっと日本のこと、
地域の文化や景観のことを学んでいこう。
日本にはまだまだ素敵なローカルがたくさん残っている。

この本を読んで、自分なりに伝えたい地域の魅力や旅のあり方が
ぼんやりと浮かび上がってきた。

とても共感できる本でした。
いつか彼と会って話してみたい。

(佐藤 直之)

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