Roots

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大学1年になったばかりの頃だった。

とある雑誌を買ったことをきっかけに、インテリアの世界にはまりだした。
2000年8月号に発行されたBRUTUS「世界でいちばん好きな椅子」。

その中で特集されたいた1人に、強烈な印象を受けた。
世界的な椅子コレクターの永井敬二さん。
調べるとなんと、通っていた大学がある福岡に在住とのこと。
いつか彼に会いたいと願い続けた結果、2年前にお会いしお食事をすることが叶った。
普段人にあってあまり緊張することはないけど、10年越しの想いが重なり、
極度の緊張で最初はほとんど顔さえ合わせることができなかったほどの人物である。

そして大学時代、同じく私に強い影響を与えたもうひとりの人物が福岡在住の
インテリアプランナーの長峰秀鷹さん。大学の先生のご縁で知り合うことになり、
学生の私たちをとっても可愛がっていただき、福岡天神の都市再生プロジェクトを一緒に
させていただいた(worksの「リージョン天神」)。彼とは夜中のデザイン談義・就職相談
とディープな時間を過ごさせていただき、私が九州に残るきっかけをつくってくれた。
そんな彼は私が社会人になる直前でお亡くなりになってしまったが、
今でも私の心で鮮明に生きている。

大学時代に影響を与えたそのお二方は、偶然にもインテリア業界の方である。
社会人になっていろんなデザイン関係の方々とお会いする中で、お二人のお話を
するとき、共通して出てくるキーワードが「ニック」。
1966年から2000年まで、欧米のモダンデザインやグッドデザインを紹介、
提案した福岡の「デザイン発信拠点」である。彼ら2人もそこに関わっていた。

そして今日、唐津の情報誌ROASTを渡しに訪れた福岡市大名のインテリアショップ。
そこのご主人と何気なく話していると、やはり出てきたキーワードが「ニック」。
ご主人もニックで働いていたインテリアコーディネーターであり、
長峰さんの先輩であり、永井さんの同志であった。

時代を超えても、1つの場所やあの頃のムーブメントで繋がっている。
とっても素敵なことで、そのルーツに少しでも関わっていられることが嬉しい。
と同時に、そんな場所が色濃くあったことを羨ましくも思う。
それがきっと、文化って言うんだろうな。

ゴールデンウィークは、打合せを兼ねて雲仙の小浜温泉へ。
いつもはレンタカーを借りて高速で行くのだが、このときは
バカンス気分に便乗して天草から島鉄フェリーで行くことに。

 

完全なリサーチ不足でした。こんなにも道が混んでいるなんて。
天草に入ってから鬼池港に着くまでに4時間、鬼池港でフェリーに乗る
までなんと3時間。。。周囲の車両ナンバーをみると、関西からの観光客が
多く、この時期はハウステンボス行きの観光客で大混雑しているようだ。

 

でも、待ち時間に出会った天草の暮らしの風景はのどかで気持ちがよく、
フェリーから夕陽もみれたことで疲れも吹き飛んだ。
オフシーズンにこれば、とっても豊かな時間が過ごせそうだ。新たな発見。

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小浜温泉には毎年数回訪れている。
STUDIO SHIROTANIの城谷耕生さんに会うために。
小浜温泉を拠点にしながら、世界を相手に仕事する世界的なデザイナーであり、
城谷さんのお人柄、素敵な事務所、新鮮な海産物、豊かな温泉と景観にすっかり惚れ込み、
いまではすっかり小浜ファンだ。

roots_小浜温泉

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この日の夜は、城谷さんご推薦の海鮮居酒屋で絶品を味わいながら、
とあるプロジェクトのこと、独立のご挨拶、小浜での取り組みについてお話をした。
城谷さんの仕事は、良い意味で境界がなくて、自分のスタンスをしっかり持ちながら、
地域や社会の課題と向き合っている。お会いするたびに、たくさんの刺激をいただく。

 

最近取り組まれているのが、「刈水エコビレッジ構想」。
過疎化が進む小浜温泉の刈水地区の地域資源を、観光的な目線からリデザインして、
活性化を図ろうというのが狙いだ。そのリーディングプロジェクトが、古民家を改築した
ショップ&カフェの「刈水庵」。

 

翌日、小浜温泉の中腹の生活道路を辿っていくと、刈水庵のサインが出てくる。
生活道路は地元の子供たちの遊び場だ。
こんな光景、今ではあまりみなくなったが、ここ刈水地区はゆっくりと変わらない時間が
流れているのである。

roots_小浜温泉

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刈水庵の近くにある古民家では、デザインマーケットが開かれていた。
食器や雑貨、洋服が、建物や敷地の中に並べられていて、若い人たちがやってくる。
写真にあるキューブは、象印のBARセット。昔の象印はとてもデザインに力を入れて、
こんなものをつくっていたみたい。その時代の思想やライフスタイルがわかり、昔の
デザインをみるのは面白い。いまなら果たして売れるだろうか・・・

roots_小浜温泉

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もう少し道を上ると、お目当ての刈水庵に到着。
当時の古民家の佇まいがそのまま残っている。
お金をかけずに建物を生き返らせるには、風と光を通し、そのまま使うのが一番だ。
最小限のリノベーションに留めて再生したと城谷さんに伺った。

roots_小浜温泉

1Fはデザイン小物のショップ、2Fはカフェ。
1Fでは、市場に出ないキズものが売られていて、市販のものより値段が安い。
でも、その違いは素人にはわからない。捨てられるなんてもったいない。
城谷さんのものづくりへの姿勢が感じられる。丼もののボウルを2つ購入。

 

2Fのカフェは、小浜温泉の市街地が一望できるとっておきのスポット。
友達のお家に来るように、近所の人や観光客がぞろぞろとやってくる。
とっても居心地の良い空間。

roots_小浜温泉

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全国各地に、役割を終えて取り残されている古い建物がある。
「古い建物は、単なる遺産ではなくて、個人の記憶そのものである」
以前唐津でご講演いただいた建築家の藤森照信先生の言葉がいまも心に響いている。

 

建物は、時代を超えて、人の記憶を繋いでいく装置である。
いまの時代に合うように使い方を考え、無理のないやり方で、ひとつでも多くの建物が
息を吹き返せるように。そのヒントを、刈水庵に学ぶことができた。

roots_地域活性化の考え方

このたび、企画・プロデュースの立場から地域活性化を支援するパートナーとして、Rootsを独立開業する運びとなりました。

 

「日本の豊かな風景や文化を残したい」
九州各地の地域づくりの現場に携わる中で、常々感じていたことです。

 

島国ニッポンには、世界に誇れる風景や文化がたくさん根付いています。美しいものに観て触れる、人間の想いや優しさに心通わせる、美味しいものを食べる、大切な人と豊かな時間を過ごす・・・心を揺さぶる感動は、いつの時代も変わらずに時代を超えて生き続けるものであり、地方にはその感動を味わう豊かさが詰まっています。

 

日本の美しきルーツが残る地方から日本を変えていきたい。中長期的な視点から、地域や社会の本質と向き合っていく。地方に根付く風景や建物、文化に新たな価値を生み出すことで、心豊かな故郷を残していく。地方に新たな光を灯すことで、住んでいる人たちに誇りを、訪れる人たちに感動とつながりをつくりたい。

 

時代の先を見失いがちな今だからこそ、「地方の根っこ」をしっかりと見つめ直して、地方から豊かなまちのアイデンティティをつくっていくお手伝いができればと考えています。まだまだ経験も知識も足りない若輩者ですが、真摯に地域や社会と向き合う所存です。どうぞよろしくお願いいたします。

 

2013年5月 Roots 代表 佐藤 直之

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