「行きつけの店」。
それが、山口瞳にとっての鉢巻岡田やサンボアのように、
その店に行くためにわざわざ泊まりにいったり、その地にいるときは毎日のように
通ったりする店と定義するなら、私にとってはまだそんなお店ないのかもしれない。
でも、これから「行きつけのお店」をつくっていくとすれば、
大分市にある「方寸」は間違いなくリストの中に入るだろう。
ここ数年に行った飲食店の中で、ここまでに五感を刺激され、
食べることの感動をおぼえたお店はない。
週末、その「方寸」の感動と素敵なBOSS・久垣さんに再会するため、
わざわざ大分へ向かいそして泊まった。
一度方寸の魔法にかかってしまった私にとっては、
お店の人には申し訳ないけど、お客さんがいない方寸が好きだ。
なぜなら、方寸の空間、料理、会話、全てを独り占めできるからだ。
それくらいゆっくりと味わいたいお店なのである。
方寸の料理は、五感で楽しむことが考え抜かれている。
料理の美味しさはもちろんのこと、BOSSが厳選する器と盛りつけ、
色味、意外な食材の組み合わせ、全てに一切の妥協がない。
次はどんな料理が出てくるのかずっとわくわくしている。
一品一品に笑顔が溢れ、会話が生まれる。
かつてスローフードジャパンの石田さんがおっしゃっていたが、
方寸の料理は、「食の喜びを分かち合う」スローフードの目的に
叶ったお店なのだ。
方寸の極上の料理は、豊かな感性を持つBOSSと料理人の久垣さんが
いて生まれる。世界一予約が取れないと騒がれたバルセロナのエルブリは、
半年間営業し、半年間は翌年の新メニューのための研究・開発期間に充てられる
らしいが、エルブリのドキュメンタリー映画を見て、日本版のエルブリは
まさに方寸だと勝手ながらに思っている。
方寸の感性豊かな料理とBOSS、久垣さんに出会うと、ついつい時間を忘れてしまう。
昨夜も気づけば午前様であった。
たったひとつ、「行きつけのお店」と会いにいく人がいれば、
そこは立派な旅先になるんだと私は思っている。
つまり、私にとって方寸=大分市は度々訪れる旅先になったのである。

ジョージナカシマの家具で彩られたカウンター

関のイサキの姿造りと関アジ

えびしんじょうのごまパン

テリーヌと生ハム、ポテト

茄子と鰯のミルフィーユ

無花果の白和え